雇用は日本国民にも関心の高い問題。外国人雇用となれば「外交」にも関わります。このため政府方針は大きくブレることはありません。見方を変えれば、政府のスタンスを知れば外国人雇用政策の見通しがつき、企業も外国人雇用の方針が立てやすくなるのです。本記事では、外国人労働者をめぐる政府方針について解説します。
この記事の目次
外国人労働者の受け入れ拡大は必然
まず、そもそもの大前提として、外国人労働者の受け入れ拡大は日本にとって避けられません。少子高齢化によって深刻化している労働力不足を解決するためには、ほかに適切な方法がないからです。
総務省統計局によると、2022年2月時点の日本の総人口は1億2,519万人でした。ピーク時の2008年12月の1億2,810万人から約290万人も少なくなっています。国立社会保障・人口問題研究所の予測では、2048年には9,913万人と1億人を割り、2060年には現在の約2/3となる8,674万人まで減少します。
参考:
総務省統計局 人口推計
国立社会保障・人口問題研究所
労働力人口も減少しています。働き手となりうる15~64歳の「生産年齢人口」は、全人口に対して現在60.3%で、ピーク時の1993年(69.8%)から約10%も低下しています。そして若者の割合も小さくなっていますから、建設や農業など、体力が必要な現場での人手不足はより深刻なものになっているのです。
人口減少を食い止める対策としては、生まれてくる子どもの数を増やすこと、つまり「出生率を上昇させること」が正攻法になります。国も育児支援の拡充など対策を出してはいますが、日本の合計特殊出生率は、2021年の最新データで「1.30」まで低下してしまいました。出生率は「2.13」を超えないと人口は減少していきます。あらゆる対策を導入しても、ここまで低下した出生率を回復させるのは相当の時間がかかります。
労働力不足を補うため、女性や高齢者の社会参加も進んでいますが、厳しい人材難の状況にある肉体労働への参加は難しいでしょう。
ロボット導入といった機械化やIT化も人手を補う方法として期待されますが、介護など繊細な気遣いが必要な現場には、現状ではやはり人の手が欠かせないと言われます。
いろいろな選択肢を検討してみても、やはり外国人労働者の力を借りる必要がどうしてもあるのです。
これまでの理想:外国人労働力は高度人材中心で
政府はこれまでも、外国人労働力の受け入れについて方針を示してきましたが、この10年ほどで大きく変遷しています。それは「理想から現実へ」と寄り添う動きでした。
外国人労働力について日本政府が当初掲げてきた理想は、高度な知識や技能を持つ「高度外国人材」の受け入れ拡大です。
彼らについては「イノベーションを担う人材として不可欠(経済産業省)」と評価しており、各種の優遇策を用意しています。
たとえば「在留資格認定の審査時間の短縮(約10日で完了)」「日本で1年就労すれば永住権(グリーンカード)の取得申請が可能になる」といったものです。
この高度外国人材とは、次のような外国人が該当します。
- 日本国内または海外の大学・大学院卒業同等程度の最終学歴を有している
- 在留資格として「研究」「技術・人文知識・国際業務」「経営・管理」「法律・会計業務」の技能を有する
- 採用された企業で、研究者やエンジニアなどの専門職、海外進出などを担当する営業職、法務・会計等の専門職、経営に関わる役員や管理職などに従事する
こうした高学歴かつ専門分野に秀でた外国人は、たしかに企業だけでなく日本にとっても貴重な人材です。受け入れ拡大を図るのは当然と言えますが、それだけに確保するのも難しいでしょう。
これからの現実:高度人材以外の外国人も受け入れ拡大
政府は高度外国人材の対極とも言える「単純労働者」の受け入れには慎重でした。治安の悪化や、異文化の流入による日本社会の変化を懸念する声が大きかったのです。しかし、少子高齢化の進行により、現実を直視しなければならなくなりました。
こうして日本の外国人労働力受け入れ政策は、2019年に大きく変わりました。
「高度外国人材」を軸としていた従来の受け入れ方針を変更し、より広い労働分野の担い手としての外国人材の受け入れに道を拓いたのです。
具体的には、これまでの「技能実習制度」に加えて、新たな在留資格「特定技能」を創設しました。実習制度の趣旨は「日本の技術や知識を発展途上国など海外に移転し、国家の成長につなげること」ですが、特定技能は「深刻な人手不足にある業種の即戦力」として外国人を受け入れるものです。高度外国人材に求められるような、高い学歴や高度な専門技能は必要ありません。
また、在留資格も大きく緩和しています。一定の条件を満たせば在留期間の上限がなくなり、更新できる限り日本滞在が可能です。また、家族の帯同も認められます。
特定技能で就労できる業種は次の12分野です。
- 介護
- ビルクリーニング
- 素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業
- 建設
- 造船・舶用工業
- 自動車整備
- 航空
- 宿泊
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
外国人労働力の積極的な受け入れを
外国人労働力の受け入れは、これから拡大していくことはあっても、縮小することはないでしょう。
法務省は令和1年(2019年)に、最新版「第5次 出入国管理基本計画」を発表しました。これは外国人の入国・在留に関する国家政策の方向性を示すものです。同計画には「特定技能」の新設について盛り込まれ、その意義として「深刻な人手不足対策のため」と明記されました。
平成22年(2010年)の「第4次計画」には、「アジア地域の活力を取り込んでいく」ために外国人を受け入れる、とあいまいな表現でした。10年ほどで、政府は外国人労働力について、理想主義から現実主義に転換したのです。
なお、「第5次」からは、計画の正式名称を、出入国管理基本計から「出入国『在留』管理基本計画」に変更しています。在留の文字が入ったことからも、外国人を長期的な労働力として受け入れる意思が明確になりました。
実は、日本で働く外国人は、すでに172万人にも達しています(外国人雇用状況(厚生労働省))。外国人労働力の存在は、人手不足に悩む中小企業にこそ当然のものとなっていくでしょう。
今のうちから外国人技能実習生などの受け入れを積極的に検討して、外国人労働力が就労する環境づくりを進めていくことが、企業の生き残りでも重要になります。